相続人の中に認知症などにより意思能力が問題となる可能性がある方がいる場合は、本人自らが遺産分割協議に参加して意見することが難しいため、予め「成年後見人」という代理の人を選任する必要があります。

昨今では、老人ホームや介護施設に入所中で、意思表示が困難なご高齢の方が相続人となるケースが増えているため、成年後見の制度についても事前に知っておくことが大切です。

今回は、遺産相続において成年後見人が必要となるケースと手続きの流れについて解説します。

相続人の中に判断能力が低下した者がいる場合は「成年後見人」をつける必要がある

相続発生後の遺産分割協議については、相続人全員の意見を反映したものでなければならないため、誰か一人でも欠ける場合は遺産分割協議が成立しません。

また、認知症、知的障害、精神障害などの理由で判断能力が不十分な相続人がいる場合については、たとえ参加できる状況だったとしても、正常な判断が困難であることに加え、後になって成年後見人が選任されることにより遺産分割協議のやり直しを求められるという可能性もあります。

このような場合については、事前に本人の代理となる「成年後見人」を立てる手続きから始める必要があります。

成年後見人とは、判断能力が不十分な人の代理人となって、財産を管理したり、契約などを行う人のことで、家庭裁判所に申し立てて選任してもらう必要があります。

成年後見人は遺産分割協議に限らず、老人ホームや介護施設への入所手続きや契約、保有している賃貸物件の家賃等の管理など、本人のために必要な代理行為を行う権限があるのです。

成年後見人となるのは親族や弁護士などが一般的

成年後見人となるために特別な資格は必要ないので、本人と近い間柄の親族が選任されることもありますし、親族がいないなどの事情がある場合には弁護士などの専門職が選任されることが一般的です。

ただし、他の相続人については、遺産分割協議にあたって利害関係が生じることとなるので、成年後見人にはなれません。

当事務所にご依頼いただければ、成年後見人の申し立て手続きや、成年後見人への就任についても対応することが可能です。

遺産分割協議が揉めそうな場合や、話し合いが長引きそうな場合については、ご親族の方が成年後見人に就任されるよりも、専門家である弁護士にご依頼いただいた方がご負担を軽減できます。

法定後見制度の3つの種類

成年後見人をはじめとする法定後見制度については、本人の判断能力に応じて次の3つの種類があります。

申し立てする人が自由に選べるわけではなく、あくまでご本人の判断能力の状態に応じて、医学的な視点から判断されます。

申し立てにあたっては、主治医の診断書が必要になるとともに、判断が難しい場合については、別途鑑定費用が必要です。

成年後見人

成年後見は、認知症などの重い精神障害で判断能力が不十分な人が対象で、遺産分割協議をはじめ、本人の財産に関するすべての代理権を持つこととなります。

成年後見人は、本人の同意がなくても、本人のために必要な判断を下すことができます。

保佐人

保佐は、判断能力が著しく不十分な人を対象としています。

不動産の売買契約や借金など、一定の行為について行う権限がありますが、成年後見人とは違い、本人の同意が必要です。

本人が同意していなかった場合については、後から取り消すことができます。

補助人

補助は、一定の判断はできるものの、高度な判断が必要なケースについてだけ補助が必要な人が対象です。

特定の契約などの法律行為について、同意、取り消し、代理などの権限を持ちます。

成年後見人が必要となるケース

次のようなケースについては、遺産分割協議を始める前に、法定後見制度の手続きが必要になる可能性がありますので、一度弁護士までご相談いただくことをおすすめします。

  • 相続人に認知症などの人がいる
  • 高齢で寝たきりの相続人がいる
  • 交通事故などで意識レベルが低下している相続人がいる

また、相続人の中に未成年者がいる場合については、親ではなく特別代理人を立てる必要性が出てくるケースもありますので、遺産分割協議を始める前に、一度当事務所までご相談ください。

成年後見の申し立ての流れ

成年後見が必要な相続人がいる場合については、遺産分割協議の前に、成年後見人の申し立て手続きが必要となります。

申し立て手続きの具体的な流れは以下の通りです。

家庭裁判所への申し立て

成年後見の申し立て手続きには、非常に多くの書類が必要となります。

必要書類はケースによって微妙に異なりますが、一般的に必要なものは以下の通りです。

  • 申立書
  • 申立人の戸籍謄本
  • 本人の戸籍謄本、住民票
  • 本人は後見等について登記されていないことの証明書
  • 本人に関する照会書、親族関係図、財産目録、収支予定表
  • 医師の診断書
  • 成年後見人の候補者となる人の住民票、陳述書、照会書
  • 申立書付票

これらの書類と郵券、収入印紙を準備して、本人の住所地を管轄している家庭裁判所に申立をします。

事実調査

申立人、成年後見人の候補者、本人等が家庭裁判所に呼ばれ、調査官から事情などについて質問されます。

申立手続きを当事務所にご依頼いただければ、当日は弁護士も同席いたしますのでご安心ください。

事実調査の状況によっては、後日精神鑑定が行われる場合もあります。

審判

家庭裁判所が成年後見人を選任する審判を下します。

通常は、申立時に提出した候補者から選任されます。

成年後見が必要な場合は、早めに当事務所までご相談ください

遺産相続において、認知症等の相続人がいる場合については、成年後見の申立手続きを先にしなければならないため、遺産分割を始めるまでに大幅な遅れが生じる可能性があります。

特に成年後見の申立てについては、一般の方には非常に煩雑な手続きとなっており、ケースに応じて追加書類などを後から求められることもあるため、相続人ご自身で対応されますとかなりの時間と労力を費やさなければなりません。

当事務所にご依頼いただければ、成年後見人の選任まで相続人の方に代わって手続きを円滑に進めることが可能です。

また、当事務所の弁護士が成年後見人となって遺産分割協議に参加することも可能ですので、まずはお気軽にご相談ください。

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