相続トラブルを防止する対策として、遺言書作成は有効な対策のひとつです。
ところが、遺言書はただ作成すればいいというものではなく、法律の規定に従った形式で作成されていないと無効になってしまうこともあります。
今回は、せっかく作成した遺言書が無効となってしまうケースと、作成時のポイントなどについて解説します。
自筆証書遺言は手軽に作成できるが無効となるリスクも高い
遺言書の中でも最も手軽に作成できるのが「自筆証書遺言」です。
自らが直筆で書く遺言書で、公証役場に持ち込む必要もないため、思い立った時にすぐ作成できます。
しかし、無効となってしまうことも多いのが、自筆証書遺言の特徴です。
日付の記載漏れで無効になるケース
遺言書を作成する際に、絶対に忘れてはならないのが「日付」です。
いつ作成してものか日付が特定できない遺言書については、残念ながら「無効」となってしまいます。
民法の規定は次のとおりです。
【民法968条1項】自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
日付については、年月日が特定できれば問題ないので、平成などの元号表記でも、西暦表記でも問題はありません。
「還暦の日」といった記載でも特定ができれば問題はありませんが、別途証明するために書類が必要になる可能性もあるため、原則としては通常通り年月日で記載することをおすすめします。
また、○年○月吉日といった書き方をする方が時々いますが、この表記では日時の特定ができないため、遺言書は無効となってしまいます。
遺言は更新することが許されているため日付は重要に取り扱われる
遺言書は一度作成しても、その後何回でも修正することが可能です。
作成した遺言書自体に修正を加えることもできますが、全く新しく作り直すこともできます。
例えば、公証役場で公正証書遺言を作成した数年後、直筆の自筆証書遺言で作り変えることも可能です。
遺言書の優先順位については、遺言書の形式に関係なく「日付」の新しいもので判断されます。
そのため、複数の遺言書が発見された場合については、作成日の日付が一番新しいものを最新の遺言書として扱います。
こういった意味からも、遺言書に書く日付はとても重要と捉えられています。
パソコンで打ち出していて無効になるケース
自筆証書遺言は、本人が直筆で書くことが要件とされているため、パソコンで入力して印刷したものについては、たとえ本人が署名捺印したとしても無効になってしまいます。
どうしてもパソコンを使って遺言書を作成したい場合については、秘密証書遺言にするという手段があります。
秘密証書遺言という様式であれば、全文をパソコンで打ち出した遺言書でも有効な遺言書として成立します。
ただし、それを印刷して公証役場に持ち込んで、証人2名立ち会いのもと封筒に公証人から署名捺印をもらう必要があるため自筆証書遺言よりも手間と費用がかかる点はデメリットです。
相続発生後については、自筆証書遺言と同様に、検認という手続きを家庭裁判所で行う必要があります。
財産目録はパソコンでの打ち出しも有効
昨今の法改正により、今後は自筆証書遺言でも「財産目録」の部分については直筆ではなく、パソコンで打ち出したものでも有効になります。
財産目録とは、相続の対象となる財産の一覧表のことで、預金であれば銀行名、支店名、口座番号など、不動産であれば地番、家屋番号、地積など財産が特定できるよう正確に書かなければなりません。
複数の資産をお持ちの方が自筆証書遺言を作成する場合、財産目録を直筆で作成することがかなりの負担となっていたことが法改正の背景にあったと考えられます。
ただし、パソコンで打ち出したものを財産目録とする場合についても、一定のルールはありますので、ご希望の方は事前に当事務所までご相談いただければ幸いです。
遺言書の訂正の仕方が間違っていて無効となるケース
自筆証書遺言は直筆での記載が求められるため、途中で書き間違えたとしても、書き直さずに訂正してそのまま作成するケースが多く見受けられます。
書き間違えた遺言書を訂正することは可能ですが、訂正の仕方についても民法で次のように厳格に規定されています。
【民法968条2項】自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない
よって、単に二重線で消して訂正しただけでは無効であり、訂正箇所に押印が必要です。
その上で、空いているスペースに「○行目○文字削除、○文字追加」といったように追記し直筆で署名する必要があります。
遺言書の作成は当事務所にお任せください
このように遺言書については細かな規定があるため、一般の方がインターネットで検索した知識などをもとにして作成しますと、相続発生時に無効であることが発覚してかえってトラブルの火種になってしまう可能性があります。
遺言書は被相続人の意思を示し、相続人を円滑に進めるための重要な書類ですので、作成する際には相続に詳しい弁護士にご相談の上、適切に作成することが重要です。
当事務所は、相続発生後の検認手続きが不要になる公正証書遺言の作成をおすすめしています。
税理士とも連携しており、相続税対策も含めてのサポートが可能ですので、まずはお早めにご相談ください。